「宇宙を駆けるよだか」1巻 川端 志季 

「宇宙を駆けるよだか」1巻 川端 志季 の感想です。
宇宙と書いて、そらと読みます。

宇宙を駆けるよだか 1 (マーガレットコミックス)宇宙を駆けるよだか 1 (マーガレットコミックス)
(2015/02/25)
川端 志季

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〈最初に一言〉
大事なのは見た目?それとも心?


〈あらすじ〉
明るい性格の美少女あゆみは最近彼氏ができたばかり。そんな幸せ絶頂のあゆみはある時、クラスメイトで醜い容姿の然子と体が入れ替わってしまう。何もかも、世界が変わってしまったあゆみはクラスメイトで幼馴染の火賀とともに戻る方法を探し始める。

〈登場人物〉
・小日向 あゆみ(こひなた あゆみ)
明るい性格の美少女。高校1年生。陸上部。最近公史郎と恋人になったばかりであった。初デートの最中に然子の自殺を目撃したことで彼女と心と体が入れ替わってしまう。世界が何もかも変わってしまい当初は落ち込んだが、前向きに元に戻る方法を探し始める。

・海根 然子(うみね ぜんこ)
あゆみとは正反対な醜い容姿、劣等感の強い性格の少女。あゆみ達のクラスメイト。あゆみが羨ましく、故意に彼女と入れ替わった。然子になったあゆみを陥れようとする等、黒い面を持ち合わせている。あゆみの恋人・公史郎に強い思い入れがあるようだが・・・?

・水本 公史郎(みずもと こうしろう)
通称しろちゃん。あゆみ達にとってクラスメイトの男子。なおあゆみと火賀とは幼馴染である。あゆみと然子の入れ替わりについては認知している。真面目で優しい優等生だが一方で火賀に強いライバル意識を持ち、火賀は見た目が良いからいくら自分が頑張っても火賀の周りにばかり人が集まる・・・と妬む。あゆみになった然子に「火賀と入れ替わりたいからその方法を教えろ」と持ちかけている。考えや行動に謎の多い人物。

・火賀(かが)
あゆみ達にとってクラスメイトの男子。あゆみと公史郎とは幼馴染でもある。あゆみと然子の入れ替わりを真っ先に気付き、それ以降は然子になったあゆみを何かと支えてくれる。実はあゆみのことが好き。美形かつ人がいつも集まってくる存在で、クラスの中心人物。まっすぐな性格で、あゆみの姿が変わってしまっても一途に彼女のことを思い続けている。

・宇金 真緒(うこん まお)
売る目的で入れ替わりのデータを集めている女性。元々は王地 正隆(おうじ まさたか)というオネエ系の男性で、同意のもと女性と入れ替わり今に至る。データ集めの一環で然子となったあゆみ達と知り合った。イケメンの爪を食べるのが好きらしく、火賀曰く「ヤバイ人」。

・王地 正隆(おうじ まさたか)
同意のもと宇金 真緒と入れ替わり、その後は宇金 真緒の心が王地 正隆の体に入った状態。その後、王地となった宇金が元に戻ることを希望し、再び入れ替わる方法を試したが失敗して王地(心は宇金)は亡くなってしまった。

・ハーシェル
宇金が飼っているインコ。入れ替わっている人を嗅ぎ分ける能力があり、しばらく迷子として然子の元で預かっていた。

・律、マリ
あゆみの親友。あゆみになった然子のたくらみにより、然子になったあゆみに冷たく当たるが火賀のおかげで後に和解。

〈感想〉

・正反対過ぎるあゆみと然子。

入れ替わってしまったあゆみと然子は見た目はもちろんのこと、あちこちでかなり対照的です。

例をあげますと・・・
・見た目の違い(美少女のあゆみと醜い然子)
・性格の違い(明るくて前向きなタイプのあゆみと劣等感の強い然子)
・立ち位置の違い(友達もいてクラスでは中心人物、恋人も幼馴染もいるあゆみと孤独な然子)
・家族の違い(優しくて明るい両親を持つあゆみと父が不在の時が多く母と2人暮らしで少々ギスギス気味の然子)
等々・・・読んだ限りでこれだけの2人の違いが登場します。

もちろん個々で違いがあるのは当たり前のことだと思いますが、この2人の場合違いのほとんどが正反対過ぎるのです。
もはや性別と年齢位しか共通点が無い気がするよ・・・。

今まで仲良しだった友達がよそよそしくなり、優しかった両親も失い・・・然子となったあゆみが元の自分の家に行って、夕食を囲む家庭を外から見つめるというシーンがあるのですが、本当に、これまで持っていたものをどっと失ってしまったのだと感じさせる苦い場面でした。

それまで持っていたものが急に自分のものではなくなること。容姿だけではなく、それまでの生活そのものが失われてしまった苦しみはかなり重いです。

入れ替わった後のあゆみが、体も家族も何もかも、全てを失い自分が分からなくなるシーンがありますが、本当に自分を構成しているものって何なのでしょうね?
自分は何でできているのか?
体か?見た目か?心か?
入れ替わって自分の体も何もかも無くしたあゆみは、果たして「あゆみ」なのか?

・・・哲学の話みたいですね。


・大事なのは見た目か、心か?美しいのは見た目か、心か?

読んでいて何回も思ったのは「人の美しさや魅力は見た目由来なのか、心由来なのか」ということ。

あゆみは醜い然子になってしまい、見た目的にはブサイクになってしまいますが、持ち前の明るくポジティブな性格で前向きに現状と向き合います。
「姿が変わっても自分は自分」と考えて、決して自分を失わないあゆみの心は凄いと思いますし、強みだと感じます。むしろこの性格が無ければどんどん悪い方向に行って不登校とか自殺とかに陥っていたんじゃないかとも思える。

あゆみになった然子のたくらみによってあらぬ罪を着せられるピンチもありましたが、最終的にはこの性格+火賀の協力で乗り越えられておりますし、徐々にクラスの中で自分の居場所を広げて行っています。
そして、幼馴染の火賀も姿が変わっても心は変わらないあゆみを見出し、入れ替わりに気付いてくれた。

然子は「私の体で足掻いたって誰にも声は届かない」と言っていますが、本来の然子だったらここまでできなかったんじゃないでしょうか?

作中で入れ替わる以前の然子の様子が(おそらく意図的に)ほとんど描かれていないのでその辺りが不明ですが、言動から想像するに然子の性格はあゆみと正反対に、どこか暗くて、人を信用できず、劣等感も強く周囲が自分を見下していると感じがちの様です。

内面が表情に出ると言いますが、然子となったあゆみは笑ったり表情も豊かで、心の明るさが顔にも表れ、それが魅力にもなっているのだろうな、と思います。

醜い然子の見た目はある意味ハンデになっている訳ですが、それを打ち消してしまう位の心の持ち主があゆみ。

こんな風に、あゆみの心の綺麗さが然子の見た目になったこそより際立って見えるのですが、一方で然子の方を見てみると美少女のあゆみの容姿を手に入れてもかなり劣等感が強いのです。

こちらはこちらで、本来の自分を失っていないとも言えるのかもしれませんが、美人でも表情に影があったりで冷気を感じさせる感じです。見た目はあゆみでも、然子らしさが現れている様な。

あゆみを陥れる様な行動を起こしたりするのも、然子ならではなのかも。本来のあゆみならばそんなことは行わないでしょう。入れ替わったことであゆみの評判がガタ落ちするんじゃないかと正直心配になってしまいますよ。

ただ、主人公のあゆみ視点の物語な上にあゆみが大変良い子なので、ついつい然子=悪という印象を受けてしまうのですが、然子にも可哀想な点があって同情すべきところはあるよなあ・・・と個人的には思うのです。

然子はおそらく醜い容姿ゆえにこれまでの人生の中で苦しみがあったでしょうし、そのことによって心が歪んでしまったのかもしれない。
そして、反対に美少女として恵まれた容姿を持ったあゆみは、周囲の人から愛され、素直で明るい心を持ったのかも。

醜い然子の容姿を持ちながらも明るい心で魅力あふれるあゆみを見ると、心に見た目が付いてくるとも思えますし、醜いことで心が歪んだかもしれない然子を見ると、容姿によって心の持ちようが変わるとも感じます。これこそ鶏が先か、卵が先かの様な話ですが・・・。

人の美しさや魅力を形成しているのは何なのか。大事なのは心なのか、見た目なのか。どちらなのでしょうか。両方なのでしょうか。


・心重視なあゆみと火賀。見た目重視な然子としろちゃん。

今のところ然子は見た目に恵まれていたあゆみは散々これまで幸せだった、そして自分は醜い容姿ゆえに不幸だったと思っている様に一読者としては感じられます。そして、その然子と似た考えを持つのがしろちゃんことあゆみの恋人公史郎。

公史郎はどんなに自分が頑張っても、いつも見た目が良い火賀の方ばかり人が集まると考え、火賀を恨んでいる。見た目が良いことで、利益を得ているんだと考えているんですね。

この容姿絶対主義な然子・公史郎チーム(勝手に名付けました!)と反対の立場にいるのがあゆみ・火賀チーム。

あゆみは「姿は変わっても自分は自分」と考えて前向きに進みますし、火賀の場合はあゆみの見た目が変わってもあゆみに魅力を感じて、あゆみを以前と変わらず好きでい続けています。簡単に行ってしまえば、「姿なんて関係ない!心重視」な2人。

私としては・・・考えとしては心の美しさが大事だと思います。が、然子や公史郎が見た目重視になってしまう気持ちが完全悪とも考えられません。

実際世の中容姿での格差もありますし、然子や公史郎が見た目重視な考えに至ってしまうことも、見た目が良いあゆみや火賀を羨ましいと思ってしまうことは人間として当たり前の感情と思えるのです。逆にあゆみ達は見た目が良いことで色々と恵まれ、他人を羨ましいと思ってしまう様な経験が無かったのかもしれませんし。

この辺りは、本当にどちらが正しいのか、悪いのか、判断が難しい。正解も無いのかもしれません。

だからあゆみ達が「正義」みたいになっちゃうと、それはそれで綺麗事みたいで気持ち悪いかな・・・お互いの立場を知ってあゆみも、然子もそれまでより考えが広がっていくというのが個人的な理想。


・謎
公史郎も然子も謎の部分がかなり強いですが、物語のあちこちに謎が散りばめられているので、ここにいくつか書いておきます。ちょっと考察もあります。

・本当に然子は不幸だったのか?・・・然子は醜さゆえに心が歪む様なことがあったのだと思いますが、歪んだ認知から自分でより不幸の感情を強めてしまったのではないかとも思えるのです。律っちゃんやマリちゃんに対して「心では私のことを見下している」という不信感情を抱いてしまった様に、歪んだ認知から自分が人から忌み嫌われていると思い込んでいた節もあるのではないか?あとは、あまりにもひどいいじめを受けていたら同じクラスのあゆみや火賀、公史郎だって気付いていたのではないか?

・入れ替わりの条件について・・・宇金によれば、赤月の日に、死ぬ現場を見て、かならず一度は死ななければいけないというのが入れ替わりの条件。今のところ同じ方法では入れ替わり状態から元に戻ることができない。
もしかしたら、お互いに元に戻りたいと思えなければ戻ることができないとか?(予想)宇金と王地の場合、宇金となった王地は元に戻りたい感情が弱かったのかもしれない。(理由は、王地は元々オネエ系なので、かねてより女性の体を手に入れたかった可能性があるから)
仮にこの条件が元に戻る条件だとすると、然子が元に戻りたいと思うことが必要になりますね・・・そう思ってもらうのも、また大変そうだ。

・宇金の連れているインコ・ハーシェルちゃんについて・・・入れ替わった人を嗅ぎ分けられる能力を持つハーシェルちゃん。時々見せる怪訝そうな表情や「・・・」といった台詞の吹き出しがインコとしては少々不自然な気がする。予想としては、元々人間で、インコと入れ替わった人。それか、入れ替わりから元に戻ろうとした王地(中身は宇金)が事故でその辺を飛んでいたインコと入れ替わってしまい、正体は宇金の心が入ったインコだったとか・・・そうなると王地は何故死んだのかということになりますが。
ちなみに・・・ハーシェルという言葉の意味について調べたのですが、ウィリアム・ハーシェルというイギリスの天文学者がいたということがわかりました。息子や妹も天文学者なのだとか。天文学者一家ですね。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A6%E3%82%A3%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%83%A0%E3%83%BB%E3%83%8F%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%82%A7%E3%83%AB

漫画のタイトルに「宇宙」と入り、作中でも星を見るシーンがあり、あゆみが火賀に貰ったバレッタが星柄だったり、あちこちで宇宙が感じられる・・・ということで、こちらの天文学者から“ハーシェル”という名前を取った可能性も高いのではないでしょうか。

・作中でほとんど描かれない入れ替わる以前の然子についての描写。そのヒントは然子のパソコンやカメラにあり?・・・あくまでも他人のものだからという気遣いであゆみは然子のパソコンやカメラに手を付けていないのですが、このパソコンやカメラに然子がどういう人生を送ってきたのか、また元に戻るにはどうすれば良いのかについての答え、あるいはヒントが隠されているのではないかと感じています。

・しろちゃんの気持ち・・・あゆみのことは顔が好み、火賀があゆみのことを好きだったからあゆみと付き合ったといった発言から、あゆみへの愛情が無い印象がありますが、然子にあゆみに体を返すよう言ったり、文化祭のお化け屋敷で火賀に暗所恐怖症のあゆみを助けに行く様に仕向けたりと、その行動が不自然。あの星を見るシーンから、完全に恨みや闇の感情で動いていた様にも見えない。そもそも、火賀への恨み云々のエピソード自体、然子を騙してあゆみを助ける目的での嘘なんじゃないかとも思える。

・然子のしろちゃん(公史郎)に対する執着心の強さについて・・・入れ替わる以前の然子と公史郎はどの様な関わりがあったのかは不明。然子があゆみを羨ましく思った一要因はしろちゃんにあるみたいです。然子と公史郎の間に過去何かがあったために執着心が強いのか?


・美と醜。美少女と醜い少女。醜くなった美少女を主人公にしたストーリーは「累」とは対極の存在か?

最初、美少女と醜い少女の心と体が入れ替わってしまうというストーリーを聞き、思い出したのは松浦だるま氏の「累」でした。

「累」は醜い容姿を持ちながら抜群の演技力を兼ね備える累が、母から受け継いだキスすることで相手の顔を自分の顔を入れ替えることのできる口紅を使い女優となっていく・・・という話です。醜い累が美人と顔を入れ替え、作中では美醜により感じられる世界の変化と言うものも描かれています。醜い見た目から美しくなった累の感じられる世界が一変してしまったことの一方で、累と顔を入れ替えた美人・ニナが累の顔になったことで醜さゆえの行き辛さや苦しみを知るというシーンもあります。

※以前、「累」についてはこのブログでも感想を書いたのでよろしければご覧下さい。
http://akamegane365museum.blog.fc2.com/blog-entry-385.html

「累」では醜い見た目から美人となった側が主人公でしたが、こちらの「宇宙を駆けるよだか」では美少女から醜い容姿の少女になってしまったあゆみが主人公。
「累」とどこか似ていながら、「累」とは対極の存在であるのがこの「宇宙を駆けるよだか」ではないでしょうか。
「累」と比較しながら読んでも面白いかもしれません。


〈その他感想〉
・しろちゃんが、何を考えているのかわからず怖い。意味深発言が多い。
・1巻最後の火賀の告白が良かった。「姿が変わってもあゆみが好き。今まであゆみを愛していた人数分、俺が愛してやる。」(書き方違いますが、こんな内容。)こんな台詞言う高一男子私は見たことない。
・太っている然子の体になったあゆみが食欲旺盛になったのは、やっぱり体のせいですよねえ。元々スポーツ少女なあゆみが本気でダイエットして、然子の体が痩せるという可能性はないのかな?あゆみのスキンケアのおかげで然子のニキビは減っているみたいなので。

試し読みはこちらから。
http://betsuma.shueisha.co.jp/lineup/sorawo_kakeru.html
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